
「稲作」
口和町向泉 株式会社かみごう農産
江木裕幸さん
#口和が好き 009 2023年12月20日
田んぼのこと
口和にとっての稲作は、重要な産業であるとともに景観、水源、災害などにも影響をあたえる重要なものです。
しかし、ご存知の通り、現在の中山間地での稲作は、米価の低迷、イノシシなどによる獣害、高価な農機具、農薬や肥料の高騰、担い手の高齢化や不足など課題が多く、みんながこぞって参入する状況にはありません。
どの田んぼもご先祖さまから受け継いだ大切なものに変わりはなく、口和町内でも耕作されていない田もありますが、その多くは課題に向き合いながらご自身で作り続けられていたり、担い手がいない状況では誰かに頼まれたりされています。
正直、なかなか明るい話が聞こえてこない稲作ではありますが、今後の口和のことを考えると避けては通れないものです。 この「#口和が好き」では、まずは現状を知ることを目的として、様々なかたちで稲作に携わっていらっしゃる方に現状をうかがっていこうというと思います。
今回お話を伺ったのは、株式会社かみごう農産(以下、「かみごう農産」)の代表取締役江木裕幸さんです。
本題に入る前に、数字の確認です。農林業に関わる統計をしている『農林業センサス』の直近2回にあたる2015年と2020年で、庄原市の基本的な数字を確認しておきます。

十分ご承知のこととは思いますが、耕地面積、農業経営体数ともに減少するなかで、法人数のみが増加しています。
農業の大規模化を推進する政府の政策の流れを受けて農業を行う法人が増えていますが、庄原市などの中山間地域では担い手不足のなかで農業を続けていく手段として法人化を選ぶケースも多いと思われます。
今回のかみごう農産も農業法人となります。
株式会社かみごう農産のはじまり
元々、町外で飲食店をされていた江木さんが実家の農家を継いだのが2008年(平成20年)のことです。当初は野菜づくりを中心にと考えていたので、農業技術大学校で野菜作りを学びながら、同時に自分の田んぼも始められました。
ところが、そのうち作るのが難しくなった田んぼを頼まれるようになり、その面積は増える一方になってきました。
その背景には、江木さんの地元の地区でも農家さんの高齢化と担い手不足の深刻化があり、このままではそのうち立ち行かなくなってしまうのは明らかでした。また、江木さんが頼まれる農地も、数年のうちに4町にまで増えていて、江木さん個人としてもこのまま増え続ければそのうち限界がきてしまいます。
そこで、地域で農事組合法人の設立の検討をはじめました。
ここで、農業法人について少し整理をしたいと思います。現在、農業を行う法人の種類は大きく分けて「会社法人」と「農事組合法人」の2種類になります。また法人が農地を持つには「農地所有適格法人」の資格を取得する必要があります。 会社法人は、「株式会社」をはじめとして、基本的には一般的な会社と同じものになります。

農事組合法人とは、農業協同組合法に基づいて設立される法人で、農業生産についての協業を図ることにより、組合員の共同の利益を増進することを目的とするもので、3人以上の農民によって設立でき、税負担の軽減などのメリットがあります。一方で、農業関連以外の事業を行えないため事業展開に制限があるのと、出資者全員に議決権があるので、意見が食い違った場合に意思決定に時間を要したり、運営が滞ったりする可能性もあります。
話を戻しまして、地域で農事組合法人についての検討を重ねていた江木さんたちですが、いろいろと懸念事項もあり設立には至りませんでした。
しかし、このまま放置しておいても状況は良くなりません。そこで、2017年に江木さん他2名の3名で株式会社かみごう農産を設立しました。
株式会社であれば事業内容に制限はありませんし、議決権は株主のみなので意思決定が比較的スムーズに行えます。とはいえ、出資にはリスクが伴いますし、簡単な決断ではなかったと思います。 耕地面積は6町からのスタートで、これは年を追うごとに増えていきました。
かみごう農産 1年の流れ
かみごう農産の1年は、雪が解けた3月ごろの田の準備と稲の種まきからはじまります。

4月末から6月末の約2カ月で田植えを行い、その後は草刈りと農薬散布の時期になります。お盆過ぎには稲刈りの準備が始まり、8月末からは稲刈りが本格的にスタートします。刈り取られたお米は、順次「乾燥」と籾摺りや選別を行う「調整」が行われます。
かみごう農産では、依頼された田んぼを作るだけではなく、稲作の一部の作業のみを請負う「作業受託」もあります。それが最も多いのもこの時期です。
作業受託には、乾燥・調整のみや、稲刈りから乾燥・調製までなど様々なパターンがあります。
稲刈りは天候との勝負でもありますので、お天気のいい週末などは、この作業受託の乾燥・調整の依頼が集中することになり、稲刈りをしつつも作業場には必ずひとり付いておく、という状況が続きます。また、よそのお米と混ざってはいけないので、機械に目一杯入れての作業ができないという難しさもあります。 そして、この合間をぬってもちろん自社の稲刈りも行います。
10月の中旬以降になると、ようやく稲刈りもひと段落となります。稲刈り後は、田んぼの稲わらを集めて牛の飼料として販売しています。この牛の堆肥がぐるりと循環して田んぼの肥料として戻ってきます。
11月末には堆肥を撒いて1シーズンの作業は終了となり、12月~2月までがオフとなります。

かみごう農産 事業の概要
ここで、かみごう農産の事業について簡単にまとめてみたいと思います。
まずは、依頼された田んぼをつくるのが事業のメインになります。依頼されると、利用権設定申出書を農業委員会に提出して許可を得ます。かみごう農産は現在45軒の農家さんから田んぼを依頼されていて、面積は約22町になります。来年にはさらに3町くらい増える予定とのことです。
お米ができたあとは、契約で決められた量の「お米」か「現金」が田んぼの所有者の農家さんに支払われます。約3分の2が現物(お米)を、残りの3分の1が現金で受け取られているそうです。お渡しするお米の量や金額は、田んぼの立地条件などによって多少変動させています。また、畔の草刈りなどご自分で管理をしてくださる場合は、契約条件もよくなるそうです。 お米の販売先は、約3分の1が自己販売で、残りを株式会社アグリ君田さんに販売しています。
田んぼをつくる以外には、先ほどの作業受託があります。
稲作は、やり方にもよりますがその全てを自分だけで行うと、たくさんの機械が必要になります。また、その機械を置く場所も必要になります。その余裕がなかったり、機械が壊れてしまったりした場合、その作業の部分だけ委託することが増えてきています。
委託先が無い場合、田んぼをやめるしかないことになりかねないので、かみごう農産のような存在はとても重要になります。
それ以外には、堆肥センターの作業を受託したりしているそうで、その辺りは株式会社なので事業を広げやすいメリットと言えます。 社員さんは現在2名で、来年にはもうひとり増える予定です。忙しい時期には、社員さんとは別にアルバイトをお願いしています。
かみごう農産の課題
さて、かみごう農産は今年で設立から丸6年が経とうとしていますが、現在抱える課題といしては大きく次の3つが挙げられます。
- 設備の問題
- 米の値段
- 後継者問題
ひとつめの設備問題ですが、先ほど設備を抱えられない農家さんの作業を受託するという話がありましたが、逆に言えばかみごう農産には設備(機械)がひととおり揃っています。
この設備も年を経るにつれて故障することもあり、いずれは買い替えなければなりません。ところが、田んぼの面積が増えると機械が動く時間も長くなり、故障や買い替えの時期がより早くやってきてしまいます。
機械を購入するときに借りたお金は計画的に返済していくのですが、場合によってはお金の返済が終わるまえに故障しはじめたりして、全体の計画が狂ってきてしまうのです。
それならばお米が高く売れれば返済も早くできるのですが、これも難しい課題です。まず、相場的に米価は低迷を続けています。ブランド化して価格を上げたいところですが、現状は増え続ける田んぼの作業をこなすだけで精一杯で、商品の価値を上げるところまで手がまわりません。
しかし、何もしていない訳ではなく、米価が上がらないのであれば収量の増加を目指しています。例えば、先述のように、稲刈り時期に作業受託で忙しくなり自社の稲刈り時期が遅れ気味になることなどを考慮して、品種や植える時期を変えてみるなど試行錯誤をしています。
最後は後継者問題です。後継者不足から設立されることも多い農業法人ですが、それ自体も多くの地域で後継者問題に直面しています。
かみごう農産では社員さんはいますが、経営者としてこれを承継するという方はまだ現れていません。江木さんとしては、できれば「地元の人」で「地域の方に信頼される人」に後継者になって欲しいという想いをお持ちです。興味のある方はぜひお話を伺ってみてください。
駆け足でしたが、以上が大切な地域の担い手であるかみごう農産の現状と課題になります。
このような状況について既にご存知の方もいらっしゃると思います。この課題がいますぐ解決できる訳ではありませんが、まずはみなさんに知っていただくことで、課題解決への第一歩となればと思います。 江木さん、今日はお忙しいところありがとうございました。
口和自治振興区
地域マネージャー
松本 晋太

