
口和町金田 農事組合法人ファーム金田
奥田拓実さん
#口和が好き 010 2024年2月20日
口和の重要な産業であるとともに、景観、水源、災害などにも大きな影響を与える「稲作」ですが、ご存知の通り、米価の低迷、獣害、各種物価の高騰など多くの課題があります。その現場の声をうかがい、まずは現状を知ることをテーマに、前回お伝えした「かみごう農産」の江木裕幸さんに引き続いてお送りします。
今回お話しを伺ったのは、「農事組合法人 ファーム金田」の奥田拓実さんです。
ここで、前回も整理しましたが、もう一度「農業法人」について確認します。
いわゆる「農業法人」というのは通称で、大きく分けて「会社法人(株式会社など)」と「農事組合法人」のふたつがあります。前回のかみごう農産は「会社法人」のうちの「株式会社」でした。今回のファーム金田はもう一方の「農事組合法人」となります。 会社法人の場合は株主によってえらばれた取締役によって意思決定され、事業内容は農業に限りませんが、農事組合法人は組合員である農家さんによって意思決定が行われ、事業はあくまで農業関連に限られます。
このような違いはありますが、いずれも庄原などの中山間地域では、そのほとんどが担い手不足を補うことを目的として設立されています。
ファーム金田が設立されたのは2010年で、今年で14年目になります。ファーム金田は金田のなかでも「石谷地区」の農家さんによって設立されました。
多くの地域と同様に、農家の高齢化や人口減少によって田んぼなど農業を続けていくことが難しい家が増えてきたため、このままでは荒廃地が増えてしまうのは目に見えていました。そこで、この石谷を守るため、奥田さんたち5名が中心(役員)となって農事組合法人ファーム金田が設立されました。現在は15戸の農地を引き受けて、稲作約10ha、牧草約3haを耕作しています。 農地の所有者さんにはファーム金田が借地料を支払い、耕作を依頼した所有者さんは、自分の田んぼで出来たお米でも必要な分だけお金を払って購入してもらいます。それ以外のお米は農協や食協に販売しています。
ファーム金田の田んぼの水源は全てため池の水なので、きれいで山の栄養豊富な水をつかった美味しいお米が自慢です。
また、田んぼで出た稲わらを有効活用しようということで、設立時から和牛の繁殖にも取り組まれていて、現在10頭の母牛を飼育しています。

ちなみに、10頭のうち、主に比婆牛を種付けしているのは3頭とのことです。ほとんどの和牛農家さんでも同様に、セリで高く売れやすい血統の種を付けることが多くなるため比婆牛の頭数が増えにくいというジレンマがあります。 昨年はG7広島サミットで食事に提供されたということで注目を集めました。また、もともと、広島県北の和牛は肉質の良さが評価され、県外にもその血が広まりました。そのような歴史も含め、「比婆牛」のさらなるブランド力アップが期待されます。
このように、ファーム金田では稲作と牧草作り、和牛繁殖の2つの事業を柱とし、売上はお米の販売とセリでの仔牛の販売の二本立てとなります。 現在は、これらを主に3名で行っていて、お勤めに出られている方が土日などにはお手伝いに来られることもあるそうです。
しかし、当然ながら田んぼと牧草の作業が重なるような農繁期には人手が足りないこともあり、人の確保が課題となっています。
また、法人の経営を安定させるということで言うと、奥田さんとしては和牛をもう少し増やしたいとの想いはありますが、現在の人数ではこの規模が精一杯なのだそうです。
人手の確保が課題になっていますが、時期による作業量の違いもあり、フルタイムでの雇用が難しい面もあります。

その一方、今日では多くの地域が農業の担い手不足なので、さらに人材が確保できればその需要に応えて他の地域にも事業を拡大するという選択肢もあります。
しかし、奥田さんたちにとってファーム金田の使命はあくまでこの石谷の地域を守ることなので、他地域への事業拡大は考えておられないそうです。荒廃地が増えてしまうという危機感から法人を設立され、地域の農業と景観を守りつづけてこられました。 いまは、草が伸びる時期ではありませんが、それでもシーズン最後まできれいに草刈りされた美しい田んぼの風景は、当たり前のようでそうではありません。そこを管理する人がいるから守られている風景なのです。
前回から2回にわたり、農業法人としての取り組みについて伺ってきましたが、まず共通するのは人手の確保の問題です。当面は現状維持ができたとしても、いずれは後継者が必要になります。どちらも、その始まりは各農家さんの後継者問題を解決するために法人を立ち上げられましたが、次はその法人の後継者問題がいずれやってきます。
先ほど、フルタイムでの雇用の難しさのお話がありましたが、そもそもお米がもっと高く売れれば人も雇いやすくなります。この度もお話のなかで、昔は田んぼを1町つくれば一家を養えた、と伺いましたが、米価の低迷は地方の衰退をさらに後押ししたように思います。
規制緩和と自由競争も大切ですが、実はヨーロッパでは「環境への配慮」や「地域振興」を目的として農家の所得のうち90%以上が公的補助という国もたくさんありますし、アメリカでは農家さんが赤字にならないような公的補助の仕組みがあります。守るべきと思う部分は守っているところもあるのです。 日本政府にも是非これらの取り組みを参考にしていただきたい、と期待しつつも、その日が来るまで待っている訳にはいきません。そこで、それぞれの法人で売上を増やす取り組みをされているのも共通点です。むしろ米価が低迷する限りこの取り組みが、法人と地域を守るための重要な要素です。
まず、かみごう農産では、作業の効率化によってお米の収量アップを狙って、品種や作業時期の工夫をされています。また、会社法人ならではの小回りを生かした作業受託による収入も重要な収入源となっています。
一方、ファーム金田では、設立当初から稲作との連携した和牛の飼育に取り組まれています。奥田さんもここを拡大することを考えておられますが、お米とは別の売上の柱を持つことも重要なことです。 特に、地域を守ることを目的に、地域に根差して誕生した農業法人にとっては、他地域への拡大ではなく、あくまで地域内での複合的な経営によって安定化を図ることが重要になります。

そして最後に、この「地域を守る」という原点から見えてくる共通点が、人とのつながりの大切さです。
自分たちではつくれない田んぼを法人などにお願いする。お願いされる側もボランティアではないので、そこから収入を得て行っています。このような、ある意味「持ちつ持たれつ」の間柄にとって人間関係は重要な要素です。譲り合うことも必要です。 この先の展望について伺っているときに、奥田さんが「これからは『人間性』が大切だ」と仰いました。思い返せば、江木さんが後継者に求めることも「地域に信頼される人」でした。
ぼくのなかで、いろいろな課題を解決するためには方法や仕組みづくりが重要だと考えていましたが、そもそも課題を乗り越えるための土壌として人間関係の大切さに気付かされるご指摘でした。
奥田さんは続けて「口和はみんなひとが良いけ」と仰っていましたが、これは大きな財産だと言えます。確かに人それぞれ多少の出来事はあるかもしれませんが、総じて口和の人のやさしさや懐の広さは、移住者の多さにも表れていますし、かく言う我が家も、口和のみなさんの人柄に触れて、まだ家も決まってないのに「口和に移住しよう」と決めたのでした。
考えてみれば当たり前のことなのですが、諸々の課題があるなかで稲作の今後を考えるときに、今回と前回でお話を伺うなかで、「人間性」や「信頼」といった人間関係という要素が大切である、という大きな学びを得ることができました。 奥田さん、今日はお忙しいところありがとうございました。
口和自治振興区
地域マネージャー
松本 晋太

