
常定神楽継承団体 戸山会
深井裕志さん
#口和が好き017 2024年12月20日
神楽(かぐら)とは、神々を勧請(かんじょう)して行う招魂・鎮魂の神事芸能をいうが、古代には神自身が行う呪術的な鎮魂舞踊であると考えられていた。神楽の語源については他説もあるが、神座(かむくら)から変化した語といわれている。(『口和町誌』より)

こんにちは、地域マネージャーの松本です。今回は新年1月5日に久々の新春神楽公演を控えた「常定神楽継承団体・戸山会」の深井裕志さんにお話しを伺ってきました。
そもそもぼく自身は、口和に来るまで神楽を観たことが無く、それどころか今回お話を伺って、神楽のことが全然わかっていないことがわかったくらいです。この神楽素人のぼくが神楽のことをお伝えするので、間違っているところもあるかと思いますが、何卒ご容赦ください。
また、神楽については、人や流派によってとらえ方や考え方がいろいろあるようなのですが、今回は戸山会さんの神楽についてのことですので、その点もご了承ください。
そして、この「人によっていろいろ」という神楽の懐の深さが、型通りの伝統芸能ではなく、今も進化を続ける「生きた芸能」として受け継がれている大きな要因のひとつではないか。今回のお話でそのようなことを思った次第で、その神楽と戸山会の魅力の一端でもお伝えできれば幸いです。

神楽の歴史は大変古く、天の岩戸の前で天鈿女命(あめのうずめのみこと)が舞ったのがはじまりとの話もあり、宮中で行われてきた御神楽(みかぐら)と、民間でその他の芸能の要素も取り入れられた里神楽(さとかぐら)に分かれて受け継がれてきました。さらに、里神楽もいくつかに分かれていきましたが、そのなかの出雲流神楽は全国に広がり、特に中国地方の島根、広島は全国有数の神楽どころとして知られています。
出雲と言えば、のちに歌舞伎の祖とも言われる「出雲阿国」を輩出したことでも知られますが、古代より神々の集う国でもあることから、神事から始まった芸能が深く息づいた地であり、きっとその息吹が現代の神楽にも宿っていることでしょう。
冒頭の口和町誌に戻ると、常定神楽団は、結成時期こそはっきりしないものの、広く名が知られた神楽団で、三谿(みたに)神楽(三良坂町)の流れをくみながら独自の手法を編み出し、他の神楽団に劣らぬ舞を披露していたそうです。 戦争により活動が中断していましたが、戦後に復活し、昭和25年(1930年)には氏神社である常定の厳島神社に舞殿も新築されました。復活後、しばらくは町内外からの出演依頼が増えていきましたが、やがて時代の変遷と後継者不足によって次第に衰退し、ついに昭和54年(1979年)には解散となりました。
ここで一旦途絶えた常定神楽ですが、昭和63年(1988年)に、口和中学校で復活することになります。当時の口和中学校教諭だった原田先生が、授業のなかで地域の伝統として常定神楽を取り上げてくださり、それがきっかけで口和中学校神楽同好会が誕生します。ここで、かつての常定神楽団員のみなさんが講師として指導してくださったのです。
当時は、近隣の中学校でも授業の一環として神楽に取り組む学校がありましたが、口和中学校の場合は神楽が好きな生徒が集まる同好会ということもあり、毎年夏に行われていた定期公演は毎回好評を博しました。 せっかく神楽を好きになったのだから、卒業後にも神楽ができる場を作ろうということで、保護者のみなさんが中心となって、平成5年(1993年)に戸山会が結成されました。深井さんご自身は、結成から3年ほどのちに関わるようになったそうです。
口和中学校神楽同好会はその後も活動を継続していましたが、先のコロナ禍で活動が停止して現在もその状態が続いており、神楽好きの中学生にとっては戸山会が活動の受け皿となっています。

もともと神楽は口伝(くでん・口だけで伝える)のものが多く、常定神楽でも演目である外題(げだい)にははっきりとした台本は無かったようです。口和中学校神楽同好会が出来た当時も基本は口伝で、あったとしても講師の先生が個人的に作られていたメモ程度です。なので、講師の先生は話の筋はおさえつつも、あとは「好きにしんさい」とよくおっしゃっていたそうです。
きっちり決まった型通りだけではなく、好きにできる部分があることが、つまり冒頭の「人によっていろいろ」という部分が、神楽の魅力であり特徴のひとつです。
好きにできる部分も様々で、その場の空気や会場のお客さんに合わせたアドリブや、お客さんとの掛け合いをしたり、学校でやるのであれば学校での話題を台詞に盛り込んだりすることもあります。
特に見どころは演者一対一のやりとりです。そのふたりが実生活では上司と部下の関係だったりすると、もう大変です。日ごろ言えないことをアドリブでどんどん放り込んでくるものですから、会場は大盛り上がりです。この好きにできる部分があることで、本来の話の筋に無かったものを付け加えることができます。
また、本来舞台上の物語は、観ているお客さんとは「別の世界」という前提で進められます。ところが、ある瞬間にアドリブでお客さんに話しかけることで、お客さんは物語と現実の狭間に置かれ、このくすぐったい状況を味わうことができます。
そして、この好きにできる部分があることで、舞台上で演じる人それぞれの個性が開花していきます。

とは言え、中学生に教えるにはやはり台本のようなものは必要だということで、講師の先生方のセリフをまとめたものが作成されています。中学生は基本的にはこの台本に沿って演じます。ただし、この台本が「正解」ではありません。講師の先生に習った時点でのものをまとめたものであり、ここから変化もしていきます。中学生でも台詞を変えることもありますし、大人にはさらに自由な部分があります。
ところが、好きにやるとは言え「好き勝手」にやっているわけではありません。それぞれの外題にあるテーマや、その魅力がお客さんに伝わることが大切です。そこを押さえたうえでの演技なのです。例えば、笑いが起こるような場面では、演者が笑いを取りに行ってわざとおかしく演じてはいけません。あくまでその役の立場にあわせて真面目に演じることが笑いを誘うのです。 また、舞台上の所作、動作も好き勝手にしてしまう訳ではありません。首の振り方、手の振り方、それぞれに特徴ある動作があり、それぞれに意味があり、それぞれが型として受け継がれ、そしてそれが格好いいのです。
考えてみると、このような所作も最初は誰かが始めたものです。なので、これは推測ですが、このような所作が生まれた瞬間は「好きなように」やっていたのかもしれません。それが格好良かったのでひとつの型として受け継がれてきたのではないかと思うのです。そう考えると、今後も新たな型が生まれて後世に受け継がれていく、ということも十分あり得ます。

神楽に魅せられ惹かれる子どもが多いのも、特徴のひとつです。中学生はもちろん、小学校に入学前の子が神楽に夢中になっているという話もよく聞きます。伝統芸能の分野で、これほど日常的に子どもが参加しているものも、珍しいのではないでしょうか。 舞の真似をする子も多いので、あの動きの格好良さに惹かれる子が多いと思いますが、あのお囃子の調子も重要な要素です。お囃子のリズムはどこか人間の根源的な興奮や心地よさを呼び起こし心躍るものがあり、無意識にそこに惹かれている子も多いのではないでしょうか。
戸山会ではお囃子に小さな子が参加していることが多いと思いますが、あのお囃子のリズムを体に染み込ませながら、大人たちの舞を見て「いつか自分も」と思っていることでしょう。
子どもから参加できて、人前に立つ経験ができ、先輩たちの背中を見ながら芸を磨いていく。この神楽の間口の広さも、長く受け継がれてきた秘密のような気がします。もし神楽が限られた特別な才能の持ち主しかできないものだったら、どこかで途絶えていたのではないでしょうか。
現在、戸山会の団員は28名で、そのうち高校生以下の子どもが10名在籍しています。
深井さんは神楽好きのことを「(神楽の)ムシがいる」と表現されます。一度神楽のムシを宿すと、一旦離れてもまた神楽のムシがうずくのだそうです。大人の団員のなかには幼少期から神楽のムシがいる方もいますし、代々ムシを受け継いでいる家もあります。これからも、先輩から後輩へ、大人から子どもへ、親から子へ、神楽のムシは受け継がれ続けています。
神楽を通して多くの世代が交流する貴重な場となり、神楽のムシを受けついだ子どもたちが戻って来られる場であることは戸山会の重要な役割です。その源泉が、神楽の深い魅力と、団員や地域のみなさんの深い神楽愛です。

現在、戸山会は、口和文化祭・芸能祭、モーモー祭、わいわいフェスタなど口和のイベントを中心に、福祉施設などでも公演されています。出演依頼も随時受付中です。
そして、このたび久しぶりの新春公演が行われるので、楽しみにされている方も多いと思います。今回、神楽についてお話を伺い、その深く広い世界の一端を知ることで、改めて神楽をじっくりと観てみたいと思ったので、ぼくも新春公演を楽しみにしています。
話が長くなるので深入りはしませんが、神楽には戦前から続く旧舞と戦後に生まれた新舞とがあり、戸山会は旧舞、共演する穴笠神楽団は新舞という違いも見どころです。
最後に、戸山会では団員を大募集中です。観るだけでは飽き足らないという方、興味がある方、まずは毎週金曜日の練習の見学にお越しください。お待ちしております。 深井さん、今日はたくさんの興味深いお話をありがとうございました。
戸山会練習見学歓迎!
日時 毎週金曜日 19:30より
場所 口和コミュニティーセンター(庄原市口和町向泉389-1)
お問合せ 戸山会インスタグラム(toyamakai_kuchiwa)まで
https://www.instagram.com/toyamakai_kuchiwa
口和自治振興区
地域マネージャー
松本 晋太

